『神様』

16時57分。改札前にあるモニュメントのそばに立ち、ケイスケは携帯の通知画面に何度も目をやった。もうすぐサトミと待ち合わせの17時。空はよく晴れている。秋が近づいているがまだ長袖は要らない。もしかしたら夜は冷えるかもしれないが、下手に長袖を来て…

『配給』

「それで監督、次回作の案なんですが」 「うむ。何か考えてきてくれたかね、田中くん」 「はい。ズバリ、女性美容師の世界を描くというのはどうでしょう」 「女性美容師か。詳しく聞かせてくれ」 「はい。主人公は若手女性美容師のA子。この世の誰よりもお…

『おわり、はじまり』

飛行機が徐々に高度を下げ、やがてタイヤが滑走路に触れると、機内はガタガタと揺れた。地上を走る轟音を数秒鳴り響かせたあと、飛行機はゆったりとした速度で所定の搭乗口へと向かい、ほどなくして完全に静止した。ポーン、と機内で合図の音がして、乗客た…

『真夏のはなし』

あ、どうも、よろしくお願いします。とりあえず、質問されたことにどんどん答えていけば良いんですね。わかりました。僕、インタビューなんか受けるの生まれて初めてだから、緊張しちゃって。東京の生活史の聞き取り調査、でしたっけ?なんか、難しそうなこ…

『雪』

上司から今日は全員さっさと帰って下さいと言われ、定時より少し早くオフィスを出た。年度末の山積みの仕事から逃れる言い訳ができた。明日から余計に大変になることもわかっていた。 午前中から降り始めた雪はわずかに強くなっていたが、気象庁が大袈裟に警…